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活版名刺コラム|アーカイブ

活版名刺コラム|第15回|名刺で伝えることは、ただ一つ

先日、数十年来のお客様である寿司店の店主様に、
活版名刺を納品させていただきました。

お店のロゴマークに、ワンポイントの朱色。

あとは、店主のお名前と住所、電話番号だけ。

とてもシンプルな名刺です。

納品から5日ほど経った頃、一本のお電話をいただきました。

「〇〇店の大将の、表面が凸凹している名刺が格好よかったんです。
私も名刺を作り替えたいのですが、相談に乗ってもらえますか?」

嬉しいお電話でした。

まずは現在お使いの名刺を送っていただき、
私なりのご提案をさせていただくことにしました。

届いた名刺を拝見すると、

表面には、社名ロゴ、シンボルマーク、役職、氏名、ローマ字、
メールアドレス、URL、3拠点の住所・電話・FAX。

裏面には事業内容、5つの許認可、さらに別の3拠点。

たくさんの情報が、小さな名刺の中にぎっしりと収められていました。

でも、眺めているうちに思いました。

これはきっと、最初からこうだったのではない。

事業が大きくなり、
拠点が増え、
許認可が増え、

そのたびに、一つずつ名刺に加えてこられたのでしょう。

情報の多さそのものが、
この方が積み重ねてこられた歴史でもありました。

ですから、削るのは少し勇気のいることでした。

ご提案は3案考えました。

現状の情報を残しながら、配置と書体を整理する案。

許認可などの詳細をQRコードにまとめ、拠点名を残す案。

そして、

思い切って多くの情報を取り除き、
社名と氏名、事業内容へつながるQRコードだけを残す案。

悩んだ末、今回は最後の案を、

「私なら、これをおすすめします」

という一案だけでご提案しました。

少し緊張しました。

ところが、お客様は初回のご提案で、
快く受け入れてくださいました。

おそらく、寿司店で手にされた名刺の

「質感」
「余白」
「印象」

を覚えていらっしゃったのでしょう。

シンボルマークには、鮮やかな青の箔。

余白を大きく取り、
氏名は美しい明朝体で、少し大きめに。

情報を減らしたことで、
ようやくその方自身が、名刺の中に見えてきたように感じました。

名刺交換をするということは、
その方と直接お会いしているということです。

住所も、許認可も、事業内容も、もちろん大切です。

でも、その場で一番伝えたいものは何だろう。

最近、私は、

「その人自身」なのではないか

と思うようになりました。

長年使ってきた名刺を変えるのは、少し勇気がいります。

けれど、ときには一度、少し離れたところから眺めて、

「今の自分を伝えるために、本当に残したいものは何だろう」

と考えてみる。

そんな名刺の見直し方があってもいいのかもしれません。